この50年 電源の進化と将来像
エジソンとテスラ
電力会社から供給される商用電源は一般家庭やオフィス、工場等で利用されています。この商用電源は交流(Alternating Current)にて供給されています。エジソンが1879年に実用的な白熱電球を発明したことに端を発し、1882年に彼が世界で初めて商用発電所をニューヨークに建設しましたが、この発電所は直流発電所で、直流(DirectCurrent)給電でした。
一方、交流による給電もほぼ同時期に開始されました。この交流給電を積極的に推進したのがテスラで、彼は既に交流モーターを実用化し、実績を積んでいました。
このため、初期の頃には直流給電派と交流給電派が競っていましたが、直流送電は送電線の直流抵抗による電圧降下が大きく、長距離の送電には向いていないことを交流送電支持派に指摘されました。一方、交流送電は変圧器によって簡単に電圧を昇降することができ、長距離でも送電電圧を高圧に変換して電圧降下の影響を大幅に低減させることで、高効率での送電を可能にしました。
結局、エジソンの直流給電は不採用になりテスラの交流送電が始まり現在に至ることになりました。しかしその後、今日までに発明されたエレクトロニクス製品の多くは直流で動く電気製品です。また、トランジスタの普及で低電圧直流電源化が一気に進みました。
トランジスタの発明と直流
1948年ベル研究所のショックレー、バーディーン、ブラッテン達が最新レーダー用に、真空管に代わる半導体の研究を開始しました。試行錯誤の末、ブラッテンは、ゲルマニウムに接触させる金の針と、金箔を貼ったプラスチックを接近して貫通させ、それをゲルマニウムの基板の上に置くと、広い周波数で大きな増幅率が得られることを発見しました。これが接触型トランジスタの誕生です。
その後、ベル研究所の親会社であるウエスタン・エレクトロニクス社(WE社)が2万5,000ドルでトランジスタの特許を公開していることをソニーの前身である東京通信工業鰍ェ知り、1953年にWE社とライセンス契約を結びトランジスタラジオへの応用開発を始めました。WE社はソニーの盛田氏に対して「何に使うのか?」と聞き「ラジオを作る」と答えたら、止めるようにと勧告されたとのエピソードがあるように、当時はトランジスタの大きな可能性を予見できる技術者がいなかったと言えるのかもしれません。
その後、ライセンスを取得したソニーは苦難の末、1955年に複合型トランジスタ5石を使った、日本発の携帯型トランジスタラジオを開発しました。このトランジスタラジオの電源は無論、乾電池を用いた直流回路でした。
この、ソニーのトランジスタラジオの成功で世界のエレクトロニクスは一気にトランジスタの時代に突入して行きました。
三極真空管を用いた直流安定化電源
トランジスタが登場するまでの1960年位までの電子装置は真空管時代です。ラジオもテレビも無線送信機もオーディオアンプも真空管の時代でした(図1(-a))。
真空管時代の直流電源は三極真空管を制御に用いたものでした。二極管のフィラメント(陰極)とプレート(陽極)の間に粗い網状の電極(グリッド)を配置して、このグリッドは陰極に対する電位を変化させることで陰極―陽極間の加速電界を増幅または抑制させて電圧の安定化を図るものでした。二極管と同様に、プレートに対して正電圧が加えられると、陰極から放出された熱電子がプレートに到達します。その時、一部の熱電子はグリッドに引き込まれるのですが、多くの電子はグリッドを通り抜けます。このようにグリッドのコントロールをすることで電流の制御が可能になります。
図2は三極管を使ったAC-DC直流安定化電源の回路ブロック図(差動増幅器は真空管であった)です。トランスで一次、二次間の絶縁をして二次巻線で任意の電圧を作り、整流、平滑した直流を三極真空管で負帰還制御する構成です。
しかしながら、電子管は大きく半導体時代の到来で低電圧大電流電源には不向きとなりました。
トランジスタ制御の直流安定化電源ユニットの誕生!
1968年トランス、電源メーカーのクリアー無線鰍ヘ、BTS規格の密閉型トランスの金属
ケースにアルミニウムのヒートシンクを取り付けた、ユニット型直流電源を開発しました(図1-(b))。
このユニット型の直流安定化電源の開発が日本のUPS(ユニット型パワーサプライ)として半導体の進展とともに新回路が考案されて現在に至る原点となりました。図3はパワートランジスタを制御素子に用いたAC-DCシリーズレギュレータ(別名ドロッパーレギュレータ)の回路です。
シリーズレギュレータ(seriesregulator)とは直列制御方式のことで、入力と出力間に直列に可変抵抗性素子を接続して、抵抗を変化させて出力電力を制御する方式を言います。図3のトランジスタ(TR1)が、この可変抵抗性素子に当たります。
AC-DC変換部は三極真空管時代と同じ商用絶縁トランスと全波整流ダイオードで非安定の直流を作ります。
そして電圧制御にはパワートランジスタを使って負帰還制御が行われます。この制御はドロッパーレギュレータと呼ばれDC-DCコンバータ部の入力電圧と出力電圧の差を、トランジスタ(TR1)に背負わせて安定化を図る方式で下記式の損失がパワートランジスタ(TR1)にかかります。
TR1の損失(熱)=(Vin−Vout)×Io例えばVin=10V、Vout=5V、Io=10Aの場合のTR1の損失は50Wになる計算です。
しかし当時は、このシリーズレギュレータが電源のリップルを低減させ高速応答を実現させた低電圧大電流電源の代表として一気に市場へこの技術が普及しました。5Vロジック電源としてあるいは12V、15Vのアナログ電源として、また24Vの制御系電源として活用されました。
しかし、AC-DC変換部には重い絶縁トランスと大きな平滑用電解コンデンサーが必要なことと、パワートランジスタで発生される熱を放熱させるヒートシンクが必要でした。
スイッチングレギュレータの出現
コンピューターの出現でTTL等のロジック回路で低電圧大電流が出力できる直流電源の要求が、スイッチングレギュレータ技術の開発を加速させました。
半導体を大量に使う低電圧大電流時代の幕開けの時代がきたのです。
米国カリフォルニア大学のCarver Mead博士らはショットキ・バリア・ダイオード(SBD)の基本となるショットキバリアゲートを発見。また、David Middlebrook博士のPWMループ安定化理論やスイッチングレギュレータの基礎原理と解析が研究される等、高効率スイッチングレギュレータ方式の実用化が各方面で開発が進みました。
1965年代に入るとシリーズレギュレータとしての可変抵抗性素子であるパワートランジスタをスイッチングにてPWM(パルス幅制御)制御方式を用いて、アナログによる発熱制御から、効率を大幅に向上させるチョッパ方式(buck-converter)が実用化されました(図4)。
このチョッパ方式は図5のようにメインスイッチ(SW1)を一定周期(t時間)内でオン時間を可変させて(図6)負帰還制御で安定化を図る方式です。
図5ではSW1がオン時にはインダクタ(L1)から負荷に電流が流れ、SW1がオフになるとインダクタ(L1)に蓄えられたエネルギーがダイオード(D1)を通して転流して負荷へエネルギーが供給されます。これに出力を監視して定電圧を維持できるようにスイッチ(SW1)のオンオフ比(パルス幅)を自動制御させる方式です。
このチョッパ方式の損失は、スイッチング素子(SW1)のターンオン損失、ターンオフ損失、飽和損失と転流ダイオード(D1)の順方向電圧降下損失とリカバリータイムによる逆方向へ流れ込む損失が大きな損失となりました。1970年代のスイッチング周波数は20KHzが一般的でした。それは、さらに高い周波数(200KHz以上)でロスの少ないスイッチ
ングトランジスタや高速ダイオードが存在していなかったからです。
しかし、1975年頃から、前記のショットキ・バリア・ダイオードの開発やリカバリータイムが150ns品の超高速ファーストリカバリーダイオードの登場でチョッパ方式のDC-DCコンバータは飛躍的に効率が向上して行きました。
絶縁型DC-DCコンバータの登場
1960年代の末期になるとAC-DC電源で必ず使用されていた絶縁型商用トランスを軽く小型にするために、高周波でトランスを駆動する研究が一気に加速しました。
図7は、この時代に最も多用されていた絶縁型のDC-DCコンバータの回路でロイヤー方式の回路と言います。これはロイヤー博士が提唱した方式で、図7のトランス(T1)の巻線を等しく巻いた2直列のトランス1次巻線の両端それぞれにトランジスタ(TR1、TR2)を接続して、これを交互にトランスから駆動信号を受けてトランスの飽和によってスイッチを転流させ自砺発振を起こさせ、方形波を発生させる方式です。
二次側は高速ダイオード(D1、D2)で整流させコンデンサ(C3)で平滑させて直流に戻します。このロイヤー発振器自身は定電圧制御ができませんので、図7の場合、三端子レギュレータ等を付加して安定化電源にしますが、この三端子レギュレータは、先のシリーズレギュレータと同様、内部のパワートランジスタが発熱して制御されますので大きな電源や入力電圧が大きく変動する環境では使えないことになります。
この方式は非常に少ない部品で構成できますが、トランスの飽和値まで電流が流れて自砺発振を繰り返すため、高周波での損失が多く欠点となります。さらに深刻な問題はトランジスタのベースでのキャリアの蓄積時間、トランスの飽和で反転してもベースのキャリアがなくなるまでトランジスタのコレクタ電流は流れ続けるため、二つのトランジスタが同時にオン状態となりトランジスタを破壊させる不具合も多発し敵増しました。
ロイヤー回路は構成がシンプルで低価格で作れることから、今でも信頼性を高める工夫を加えて使われています。
絶縁型フォワード方式スイッチング電源の登場!
「PWM制御ICの父」として広く知られているBob Mammano氏は、1975年に「SG1524」という製品を開発し米国のSilicon General社から発売されました。
このSG1524はPWM(パルス幅制御)方式で、スイッチング電源に必要な発信器、基準電源、二つのOPアンプ、変調回路等の機能を備えた画期的技術でした。現在のPWM制御ICも基本的にはこのSG1524を基本としています。
図8は、AC-DCダイレクトスイッチング方式と呼ばれるフォワード方式のスイッチングコンバータです。交流入力100Vは1次側のノイズフィルタを経由してD1で全波整流され、電解コンデンサC5で平滑されます。これをスイッチングトランジスタ(TR1)で、高周波絶縁トランス(T1)を駆動してPWMパルス幅制御をして安定化を図る方式です。
出力電圧を監視するエラーアンプ(EAMP)の出力にホトカプラを接続して1次-2次間の絶縁をします。
AC-DC変換回路以後はDC-DCコンバータで構成されています。この方式では商用絶縁トランスを用いず、高周波絶縁トランスを使いますので商用トランスに比較して画期的に軽量小型化が達成できます。
この場合のスイッチング周波数は100KHzから200KHzが採用されます。
パワーMOSFETの登場で同期整流、アクティブクランプ方式の時代に!
パワーMOSFETは商業的に最も成功したパワー半導体の一つです。DMOSパワーMOSFETは米国HewlettPackard研究所のLohn Moll博士によって1976年に初めて開発されました。この素子の製品化は米国InternationalRectifier社のAlex Lidow博士によって成し遂げられました。
図9はパワーMOSFETをスイッチング素子として用い、二次側の高周波整流はショットキバリアダイオードを用いずにパワーMOSFETを使い、同期信号によってパワーMOSFETを駆動して整流させる同期整流方式の最新スイッチングレギュレータです。インバータ部分は同期整流と相性が良いアクティブクランプ回路方式を採用しています。この回路でのアクティブクランプ方式はノイズの低減が可能で、また二次側の整流をパワーMOSFETの大きな特徴である低オン抵抗特性を利用して整流器としているのでショットキバリアダイオードと比較して順方向電圧降下による損失が1/10以上に低減しますので、スイッチング電源の効率は飛躍的に向上させられます。
図1-(g)は、このアクティブクランプ方式とパワーMOSFETによる同期整流方式を採用して500cm3/150Wを実現し、1970年代初頭のスイッチング電源を約1/10近くまで小型化されました。
低電圧大電流時代の超高速、超小型POLコンバータの時代に!
半導体のプロセスの進化は目を見張るものがあります。最新45nsのFPGAではコア電圧が1V付近まで低電圧化してきました。これらの最新FPGAやCPUを安定駆動させるにはFPGAやCPUの近(Point of Load)コンバータを配置することが安定駆動の必修になります。
POLコンバータは単に高効率小型化だけではなく、負荷応答速度が150ns位の超高速DC-DCコンバータが必要となります。
2002年当社は世界最高速のPOLコンバータを開発しました(図1-(n))。
この当社のPOLコンバータは3MHzでスイッチングし、しかも効率が94%と驚異的に高く、負荷応答速度が160nsと超高速を達成させ、12A出力品で1円玉のサイズで製品化を実現させました。
デジタル制御の時代に突入
これまで解説してきましたスイッチングレギュレータはアナログ技術で構成されています。スイッチングレギュレータをデジタル制御化するメリット、デメリットはここ数年来議論されてきましたがデジタル化のメリットは多々あります。
シーケンス、動作中の電圧制御、遠隔制御、応答速度の任意的コントロール、遠隔監視、電源の標準化等、たくさんのメリットがあります。今やコスト問題も克服されるところまで開発が進展してきました。図10は、当社のデジタル制御POLコンバータBDAシリーズのブロック図です。図1-(m)は最新のデジタル制御POLコンバータでいよいよデジタル時代の幕開けとなりました。
近い将来、スイッチング電源の多くはデジタル制御方式の時代になるでしょう。
<参考文献>
@過去と未来のマイルストーンEDN Japan
Aスイッチング電源技術用語辞典 日刊工業新聞
BベルニクスPOLコンバータ技術資料
Cスイッチング電源の現状と動向2007 JEITA
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